秋田県能代市の世界に誇る魅力を発信

能登 一志

世界の終わりとハードボイルドワンダーロードを巡る冒険の森(上)

世界の終わりとハードボイルドワンダーロードを巡る冒険の森(上)

昨日の世界1
出典:amazon

今から100年ほど昔、ベルエポックと呼ばれたヨーロッパの文化的黄金時代に青春を過ごし、やがて第一次・第二次世界大戦の暗黒に世界が突入していくなかで、パソコンもネットもない時代に、自分の記憶だけを頼りに何十年も昔のことを思い出して書いた回顧録が、シュテファン・ツヴァイクの「昨日の世界」です。

かつてヨーロッパに輝かしく存在していた世界観、文明が滅び、混沌の時代へと向かっていく空気感を描いている作品なのですが、現代の雰囲気にすごく似ているのではないかという、数年前から少しずつ感じていた不安や予感が、今年はより現実味を増した年だったように思います。

翻訳も良くて面白い本なので、この年末年始にどうぞ!と言いたいところですが、タイパやコスパ的にどうなの?と聞かれると少し微妙かもしれないので、手っ取り早く雰囲気だけ味わうのであれば、ウェス・アンダーソンがこれを原案にして作った映画「グランド・ブダペスト・ホテル」をお勧めします。

グランド・ブダペスト・ホテル
出典:amazon

どこを切ってもアンダーソン的な美意識が充満していて、隅々までオシャレな画面を楽しんだ後に、ちょっと切なさも感じられて、物語や時代の背景を知らずとも娯楽作品として十分楽しめる完成度です。

旅の始まり

さて普段から木材を使って仕事をしている当社ですが、ある時ふと、木のことは多少は覚えたかもしれないけれど、山については、まだまだ知らないことばかりだなァ、、ということに気がついて、山を知るために、とりあえず山に行こう!と思って行ってきました!

ちなみに山というと、個人的に最初に思い浮かぶのは、富士山でもエベレストでも世界遺産・白神山地でもなく、柳田國男の「遠野物語」であり、その序文

「願はくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」

という有名すぎる一文です。山は人間の領土ではなく、生と死が混在する異界であることを、何も知らない平地人(現代人)に向けて語っているわけですが、なかなかシビレる一言ですよね。アウトドアやらキャンプやら、コロナ禍の間にちゃらちゃらしたブームに乗って山サイコー!!とか言ってる私たちに、チコちゃんではなくクニちゃんが言ってるわけですよ。山は遊びじゃねーンだよと。

天然秋田杉への道

ということで、今回足を運んだ山は「仁鮒杉」や「秋田美人杉」など、日本一背の高い、樹齢200年〜300年を超える天然秋田杉が今も残されている、能代市二ツ井町の仁鮒水沢スギ個体群保護林です。

道

能代市内から目的地までのルートは、高速二ツ井白神インターで降りて、国道7号線を二ツ井方面に向かうと、ほどなくして県道203号線と交わる交差点がありますので、その交差点を右に曲がり、あとは山の方に向かってひたすら203号線を進むだけ!道の終わりまで。

道

川

道中、県道沿いを流れる内川の清らかなせせらぎを見て、かつて上流で切られた秋田杉は、もしかするとこの川を筏で渡されて能代まで運ばれてきたのかなァと妄想。この川は下流で米代川に合流します。

柵

柵

一方、川と反対側の斜面には、土砂や落雪よけの柵が張り巡らされているのが視界に入ってきます。これ、なかなか見応えありますね。自然や景観との調和を完全に無視した自分たち都合のダイナミックさに、なんとなく人間という存在の本質的を感じます。

車

でも何故か絵になる光景、かっこいい。

景色

そんなことを考えながら、さらに進んでいくと、道路脇の草むらの向こうに白い建屋が見えてきました。何かの工場でしょうか。ちょっと胸ワク。でも私有地への侵入はいけませんので、後ろ髪引かれつつ先に進むと、今度は目の前に古いトンネルが。

トンネル

対向車を交わすのに注意が必要な狭いトンネルです。むしろ歩いて越える方が怖いかもしれません。でもこの古さ、痛み具合、たまりませんね。かなり好物です。どきどきしながらトンネルをくぐって先に進むと集落が見えてきました。

廃校

集落の中心には、2007年に廃校になった田代小学校の校舎がありました。建物自体はそれほど傷んではいませんでしたが、あたりの人けの無さには何となく気持ちがやられます。

昔はそれなりに子供もいて、賑やかだったのでしょうね。一癖も二癖もありそうな山師たちや、陽気な木こりたち、ワケありの流れものや賞金稼ぎ(妄想)などで賑わっていた、あったかもしれない町の姿に思いを馳せました。

廃校

廃校

よく見ると杉の形をした校章。昔から秋田杉と関わりの深い地域だったことを感じます。

ふるさと子供ドリーム

小学校の前に建てられていた看板。廃校後に天然秋田杉に関連する何かを展示する施設として利用されていたのでしょうか。ネットで検索しても、それらしい情報は何一つ出てきませんでした。

それにしても、退色してのっぺらぼうになってしまった子供達のイラストがダークアートのようでめっちゃ好き。コラージュ素材に使いたい。

石像

そしてここで最も心を打ったのは、緑のドレスをまとった校舎前の石像の姿でした。
この地の人々の栄枯盛衰の痕跡を、緑が優しく覆い隠し、自然へ還そうとしているように感じました。

さらに、よく見ると創立百周年の下に昭和53年とあります。なんと自分が生まれた年でした。不思議な縁を感じます。

開校記念碑

後編につづく

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能登 一志

能登 一志

社長

木製建具の専門メーカー「大榮木工」の三代目代表取締役、shinbokuのディレクターです。
建具の話、木の話、業界の話、ものづくりの話、民俗などがメインになります。
趣味は料理、写真、映画鑑賞など。よろしくお願いいたします。

  1. 世界の終わりとハードボイルドワンダー ロードを巡る冒険の森(下)

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