国指定有形文化財「旧料亭 金勇」は、木都能代の黄金時代のタイムカプセルです。
明治23年に開業し、火災で焼失を経て、現在の建物は昭和12年に再建されました。今ではもう二度と手に入らない、銘木中の銘木を集めて作られた建物は、木都能代の栄華を偲ばせる「天然秋田杉の殿堂」と呼ぶに相応しい場所。
観光名所に乏しい能代市で、外から訪れたお客様に自信を持って紹介できる数少ないスポットなので、普段から仕事でもプライベートでも大変お世話になっています。
今回のシリーズは、「建具屋の視点」で金勇の魅力を語ってみよう、という試みになります。でもその前に、金勇をここで初めて知る方のための、金勇といえばこれ!のおさらいから。
天然秋田杉 柾目板貼 天井
金勇といえば、「木都能代」を象徴する二大名物があります。その一つが、1階「満月の間」の天然秋田杉の柾目板貼り天井。1本の丸太から取った、長さ9メートルの天然秋田杉の板は、節一つ見当たらない極上中の極上品。
こんなに大きな丸太から、節(枝のあと)が一つも出てこないのは本当に奇跡のような話なのです。が、もしかすると奇跡などではなく、樹木や森林の手入れを代々行ってきた人々の努力の結晶なのかもしれません。
”天然”秋田杉というと、自然に種が飛んで生えてきた木のように思う方も多いと思いますが、実は植林された杉も多く含まれています。・・・どゆこと? については、いずれまた別の機会に。
長年タバコの煙で丹念にスモークされ、煉瓦色に変色した天井板は、まるでホテルの朝食に出てくるカリカリベーコンのよう。あれ大好きなんですよね、、
何だか照明がバターのように見えてきました。太りそうだ。
木目の見事さと、庭園の美しさを愛でながら楽しむ懐石料理と日本酒の味は格別だったことでしょう。
天然秋田杉 杢目板貼 格天井
そしてもう一つの名物は、2F「大広間」の天然秋田杉 杢目板貼 格天井。
杢目板(もくめいた)とは、樹木の根本に近い部分の板のことですが、非常に複雑で、天然味あふれる木目が出てきます。
しかしそれを使いこなすのは意外に難しい。なぜなら、模様が荒々しすぎて、使い方を間違えると不気味な雰囲気を生み出してしまうからです。例えば、古くなった建物の天井や壁のシミを見ると、人の顔に見えてくることってありますよね。
人の脳の働きがそのように見せているからなのですが、板に変な形の節が並んで入っていたりすると「呪われている!」などと言いわれてしまうことがどうしてもあります。(実話)
なので杢目板は木取り方や、使い方が大変難しいのですが、木目の形や方向を、絶妙なバランスで卍型に配置することで、自然のダイナミズムと神秘さを見事に表現しています。
もともと天然秋田杉=柾目板(直線的な木目の板)という価値観しか存在しなかった時代に、杢目を生かす使い方を模索し、全ての材料を余すことなく使おうとした、先人たちの創意工夫に心から敬意が込み上げてきます。
以上が木都能代を象徴する金勇の二大名物になります。これまで様々なところで語られてきた、ある意味「わかりやすい」魅力になりますが、次回からは、よりマニアックに、建具屋の視点で金勇の魅力を語ってみようと思います。
つづく