木都能代の世界に誇る魅力を発信

能登 一志

「建具を愉しむ金勇の旅」 満月の間編

「建具を愉しむ金勇の旅」 満月の間編

旧料亭「金勇」は、能代の木材産業の黄金時代のタイムカプセルです。
「天然秋田杉の殿堂」と呼ばれるこの建物は、天然秋田杉の美しい木目と、建築材としての活用法を極限まで追求した先人たちの壮大な実験の産物であると同時に、栄えたものもいつか滅び去るという無常の真理に向き合わせてくれる場所でもあります。
そんな金勇の魅力を、建具屋の視点からお届けするシリーズ第一弾になります。

はじめに、金勇の建物自体は、能代の大工と東京の清水組(現在の清水建設)のJVで建設されましたが、建物に使われている建具は全て、能代の建具屋が作って納めたと言われています。
どこの建具屋さんが作ったかについては、すでに分からなくなってしまったようですが、約100年前に作られた製品にも関わらず、決して古さを感じさせません。しかも今でも実用品として使えるように日々手入れされていることに嬉しくなります。1枚1枚の建具を通して、100年前の人たちと今の人たちがつながっていることを感じます。

前置きはこの程度にして、それぞれの部屋の建具にフォーカスしていきます。

室内間仕切り 引分襖

室内間仕切り 引分襖1

1階エントランスから廊下を抜けて、左手側の最初の部屋が「満月の間」になります。以前ご紹介した9mの天井板がある部屋です。この部屋の、広間と次いの間(控えの間)を仕切る、幅広の4枚引分襖の存在感たるや、なかなかのもの。

庭から差し込む陽の光を、襖紙が柔らかく反射して生み出す陰影に、日本的な美の真髄を感じます。

室内間仕切り 引分襖2

数寄屋(すきや)作り内装では、襖の框(黒縁)の幅は19〜20mm程度が一般的です。しかしこの襖の場合、測ってみたら何と60mmもありました。
もともと東北の襖は框を太く作る(24mm〜30mm程度)傾向があります。これを太縁襖と言いますが、なぜ太く使ったかについては諸説あり、詳しくは別の機会に。

室内間仕切り 引分襖3

特注と思われる引手も襖に負けない迫力。全体の大きさにバランスを合わせているのと同時に、引く時に指先を傷めないように大きな引き手が使われています。

筬欄間

筬欄間1

筬(おさ)欄間とは、細い縦長の桟を並べて組んだ格子のことです。千本格子とも呼んだりもしますが、欄間に用いることで、空気の通り道を作ったり、光を取り入れる効果があります。
また角度によって透け感、抜け感が微妙に変わって見えるところに「和のエロチシズム」を感じます。

ちなみに筬とは、機織り機の縦糸の間隔を整え横糸を通すための櫛状の道具をさす言葉からきています。
昔は一般住宅の和室にも彫刻入りの欄間があるのを見かけましたが、最近では殆ど見なくなりました。和室ならではのしつらいと共に、長押(なげし)や鴨居(かもい)などの専門用語もどんどん忘れ去られている昨今にさみしさを感じます。

縁側 雪見障子

縁側 雪見障子1

庭に面した縁側のガラス戸の前に並んでいる雪見障子。この数日前に降った20年ぶりの大雪のせいで、屋根から落ちてきた雪が縁側に降り積もってこれぞまさに真の雪見障子に。

スライド部分の子障子は、上下スライド式が一般的ですが、こちらの障子は左右引分け式でモダンな佇まいになっています。料亭ならではの遊び心を感じます。

縁側 雪見障子2

ちなみに雪見障子に似たもので、ガラスが入っていない障子を「猫間障子」と呼びます。開いている部分から猫ちゃんが出入りできるようにしたものです。
スライド式の子障子が付いているもの、付いていないものがあります。

床の間 天袋・地袋

床の間 天袋・地袋1

「床の間」とは、和室の中で掛け軸が飾ってある、床が一段高く作られている空間のことを指します。床の間に立っている柱を「床柱」と呼びますが、通常は一本、たまに二本立っています。この部屋には丸太の皮を剥いで磨いた柱と、四面に柾目が出るように角材にした柱の二本が立っています。

床の間の両サイドの空間にある収納のことを天袋(上にある)地袋(じぶくろ)と呼びます。

床の間 天袋・地袋2
純白の襖紙を貼った地袋に対して、金箔紙の天袋。

仏具や茶道具を収納する目的で作られたスペースになりますが、ここに必ず小さな引違の襖が付きます。こんなちょっとしたところにも和紙や引手の美しさを愉しむことができます。

入り口 引違襖

入り口 引違襖1

最後に部屋の入口の引違襖は、見慣れたシンプルな襖。部材や引手も一般的なサイズで作られています。部屋の中の建具を引き立てるために、あえて控えめに作られたのではないでしょうか。

極めてシンプルですが、主張してこない静かな佇まいに、全体との調和を重んじる和の美意識を感じます。

1階「満月の間」の建具のご紹介は以上になります。次回は「川風の間」になります。お楽しみに!

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能登 一志

能登 一志

社長

株式会社大榮木工の代表の能登です。
三代目の視点で、自社の過去と未来の物語をお伝えします。
また自社製品や職人たちのこと、故郷の風景、不思議スポットの紹介がメインになります。よろしくお願いいたします。

  1. 「建具を愉しむ金勇の旅」 満月の間編

  2. 仕掛け人・藤枝梅安

  3. 建具を愉しむ金勇の旅・序

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